改訂版 パッシブデザインの住まいと暮らし(発行・泰文館 発売・農文協 1800円+税)
いまや「省エネ」や「快適」は住まいに欠かせないキーワードだ。背景には、2000年代に入って地球環境問題がクローズアップされるようになったことが大きい。さらにここ数年は、大切なキーワードに「パッシブデザイン」が加わった。国が具体的なCO2削減策を打ち出し、家庭から排出されるCO2も削減の対象になったためだ。これで家づくりは、いわば公的に省エネを求められるようになった。パッシブは英語で受動的、という意味をもつ。太陽の光と熱、さらに風など住まいを取り巻く環境を上手に受け入れて快適な住まいをつくりだす仕組みがパッシブデザインだ。
省エネの手法はほかにもさまざまあるが、とりわけパッシブデザインが高く評価されるようになったのは、著者のひとりである野池政宏氏の功績を無視できないだろう。建築士や工務店など家づくりに携わる人にその名を知らぬ者はいない人物だ。全国各地を飛び回っての講演会やシリーズ講義「野池学校」で学ぶ建築関係者も多い。
著者に名を連ねるのは、その野池氏に薫陶を受け、いまでは厚い信頼を得る小林伸吾氏と清水康弘氏。ふたりとも工務店経営者だ。家づくりは主に建築士、ハウスメーカー、工務店のいずれかに頼むことになるが、工務店は特にパッシブデザインと相性がいい。地元密着で営むところが多く、その地の気候や風土、地形などパッシブデザインに必要な要素を、もともときちんと把握しているからだ。
本書はこのふたつの工務店がそれぞれ取り組んだ「郊外」と「街なか」、2軒の家の実例を柱に展開される。敷地が広く、自然に囲まれた「郊外」。隣家がせまり、外からの視線も気になる「街なか」。前者は窓を大きく取り、恵まれた環境を最大限に取り込む住まいとなり、後者は複雑な土地柄をシミュレーションで高度に読み解き、厳しい環境を巧みに克服した住まいとなっている。場所も対照的なら、パッシブデザインの手法もおもしろいほど好対照だ。
同じパッシブデザインでありながら、まったく違う家が出来上がる。これこそがパッシブデザインの核心部分と言える。たとえ隣り合った家であっても、取り巻く環境や条件は異なるもの。1軒たりとも同じ手法はとれないのである。読みやすいケーススタディのスタイルを取りながら、次第にパッシブデザインの要が飲み込める構成は鮮やかだ。
2軒の家を写真で見せる巻頭のグラビアページや野池氏が解説する「パッシブデザインのイロハ」、2軒の家を訪ねて住まい手の体験談とつくり手による専門的なアドバイスを聞くページなど、総論から各論までが網羅される。
これから家を建てる人、家づくりに携わる人々、さらには住宅建築を学ぶ人にとって、これ以上ない教科書が出来上がった。